IFRS誕生が促された経済的背景
従来の会計は過去指向型である
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VS
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IFRSは未来指向型である
従来の会計の歴史
15世紀頃から用いられた金銭収支の記録方法が
⇒複式簿記(Book keeping)
従って、ここでは一航海期間を一会計年度として期間損益計算を行っていた。
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時代が下るにつれて、会計期間は国家の税収入との兼ね合いから一年間となったが、期間損益計算が複式簿記の中心概念であることに変わりはない。また、近代以降会社はGoing Concern(継続企業)の原則を前提としているため、原則的として清算せず半永久的に事業を継続するとの考えであり、期間毎に損益を測定することが重要であった。
つまり過去におきた事象を複式簿記で記録し、損益計算書を作成して配当可能利益を計算することが従来の会計の目的であった
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その意味で、あえて言うならば過去指向型の会計とも言える。
従来の会計は期間損益計算と取得原価主義が中心概念である
大恐慌の際に一時、時価主義を採用した時期もあった
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期間損益計算と取得原価主義:この2つが従来の会計の基本原則 ← 結語
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この考え方で500年間の長きに亘り、会計のフレームワークは変わらなかった。
そのフレームワークが、ここ20年間で主としてアメリカ発のファイナンス主導型の資本主義によりパラダイム・シフトを迫られた。
問題意識!!
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このような会計のフレームワークがどうして変わる必要に迫られたのか
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グローバリゼーションとアメリカ型金融資本主義が大いに関連していると思われる。
グローバリゼーションとアメリカ型金融資本主義
グローバリゼーションによるアメリカ型金融資本主義の全世界中への伝播
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直接金融制度&所有と経営の分離から一致へ
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経営者のある制度(20世紀最大の発明のひとつ)を利用した巨額報酬の具現化とそれを肯定した米国株式市場のブーム
このことが会計の変容に最も大きな役割を果たしている
アメリカ型金融資本主義伝播の歴史
上場会社の株価と会計学上の純資産とに関連性はあるのでしょうか?
→一致するはずがない。
何故ならば、会計学上の資本は一旦、取得原価で記帳されると、その後、時価との修正は求められていないのに対して、株式市場の株価は別の要因(株価決定理論;後述)によって決められるため。
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更に重要なことは、このような明確な違いがあるにもかかわらず、会計学で定義する資本と資本市場で決定される株価(その理論的根拠はファイナンス)とが収斂されなくとも、会計学上の資本概念を修正する圧力が顕在化せず、会計学者とファイナンス学者とのIvory Tower内の争いで終始していた。
2つの概念(Financial capital maintenance とPhysicalcapital maintenance)はIFRSフレームワーク資本維持概念(F102-110)で似たような説明がされている。
会計学上の資本概念が、たとえ上場企業であったとしても、株価と無関係でよいとされたと(考えられる)理由
・従来は株式持ち合いが主流のため、配当性向に対する関心が薄く、利益算定に対して含み益まで算入させる必要性が乏しかった。
・税法も含み損益は認めていなかった。
・金融の世界では、わが国の銀行融資では、不動産担保が主流であり、詳細な財務諸表分析は重視されていなかった。
・アナリストが強くなかった。
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最も大きな理由は
80年代までアメリカでは株価の変動と会社の業績とがそれ程連動していなかった。
1980年代までの米国では、株式や投資信託への投資は一般的でなかった。
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80年代始めに敵対的買収と乗っ取り屋という職業が登場するに至り、株価を巡り人々の関心が高まるようになった。
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買収を免れるためにCEOは株価をあげることに専念した。同時に、この頃、「株主価値」という言葉が誕生した。
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「所有と経営の分離」を「所有と経営の一致」へと回帰させることとなる20世紀最大の発明がなされた。
ストック・オプション
元々は1930年代に発明されたものであったが、インテルがこの制度を80年代に積極的に採用したことにより、やがて爆発的に採用されることとなった。
↓何故、大きなインパクトを持ったか
S.O導入以前の米国C.E.O.は会社の業績は経営計画に従って実行されるもの。自分の報酬もFiduciary業務に従って遂行されるものであり、株式市場の動向によって左右されるものではなかった
↓S.O.の導入によって・・・・
自分の報酬の一部がS.O.で支払われることとなったため、【経営者の立場】に【株主の立場】が加わることとなった。
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資本市場に於ける株価の連動≒利益動向に、経営者の主たる関心が移りだした。
株主価値とは何か
DCF法では、会社が有している将来の事業から生み出されると期待されるフリー・キャッシュフローの割引現在価値に、事業に用いられていない手元現金や有価証券等の非事業用資産を加算し、そこから長期負債等を減算して、株主価値を算定する
株主価値なる概念の下、積極的にM&Aが実施され、また、米国一般大衆もキャピタル・ゲインの恩恵を受けたことから、このような株式投資ブームが一般的となり、そこから諸々の金融派生商品も誕生することになった。
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つまり、ファイナンス主導の株主価値なる概念を計数的に説明しうるツールとして、会計学が役立つことを要望されることとなった。
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従来の取得原価主義に基づく会計のフレームワークでは、このような要望にこたえることはできなかった。
株主が知りたい情報とは
米国の株式市場で投資家が最も知りたい情報は、【将来の株価】である。
それは会計学的に計算される過去の数字ではなくて、ファイナンス的に計算される株主価値と概念的に極めて近いものである。
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つまり、ファイナンス主導の株主価値なる概念を計数的に説明しうるツールとして、会計学が役立つことを要望されることとなった。
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従来の取得原価主義に基づく会計のフレームワークでは、このような要望にこたえることはできなかった。
株価とは
簡単に言えば株価とは会社の将来の価値を投影したものでなければならない、というのがファイナンスの考える株式価値理論の結論である。
↓ では何をもって将来の価値を指すのかという問いには?
会社が将来稼得する可能性があるキャッシュ・フローのかたまりであるというのが答えである。
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従来の取得原価主義に基づく会計のフレームワークでは、このような要望にこたえることはできなかった。
キーコンセプトとしてのディスカウント・キャッシュ・フロー
会社の実行している諸々のプロジェクトから将来得られる(予定の)キャッシュ・フローを合計し、それらを現在価値に引き直したものが、ファイナンスで言う所の株主価値であり、このような情報を提供するように会計学の構築をし直すことが資本市場、より端的にはアナリストからの要望であった。
⇒DCFによって将来のキャッシュのかたまりの現在価値を知ることができる。
再論すると、資本市場の参加者が必要とするのは、将来のキャッシュフローを現時点での価値に引き直したキャッシュフローのかたまりたる株式価値であり、この結果従来の過去の事象を記録した財務諸表ではなく未来についての情報を提供してくれるツールを必要とするに至った。
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もはや従来の会計学の体系では対応しきれず、実態としては、ファイナンスという学問体系の中に部分的に今までの会計学が取り込まれているというのがIFRSが目指している会計の正しい姿であろう。
すでにそのような考え方の萌芽は、例えば退職給付会計や減損会計で採用されているDCFアプローチにみられる。
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現時点での財務諸表は、そのような・・・
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・従来の取得原価主義のルールに従った会計と
・ファイナンスを基盤におく新しいルールで計算された結果とが混在しているのである。
IFRSに担わされたもの
IFRSは、将来の情報を資本市場の参加者に与えるために構築された、ファイナンスを基本概念とした全く新しいフレームワークによる財務報告基準(≠会計基準)である。
⇒このことは端的に言うとネーミング自体にあらわれていると推測できる。従来はIAS(International Accounting Standard)だったが、2001年以降はIFRS(International Financial Reporting Standard)となり、その名称からAccountingが消されている。